誰もが知っているとおり、「利益」は「売上」から「費用」を引いて計算されます。ある一定の基準に基づいて計算された「売上」と「費用」を引き算するだけですので、理解しやすい概念です。ところが、この「費用」の部分が「原価」になるとたちまちに一般の方どころか経理担当者の方々にとっても非常にやっかいなものになります。なぜでしょうか。
「原価」の管理は、管理会計の領域の中でも特殊な領域といえるのではないかと思います。
原価管理とは何なのか。自社にとって、あるべき原価管理とはどのようなものでしょうか。まずは管理会計の中でも、特に製造業において悩まれていることの多いであろう、この「原価管理」について、テーマを変えながら述べたいと思います。
【原価管理とは】
原価管理とは何でしょうか。 わが国における原価計算に関する会計基準である「原価計算基準」に「原価管理」について述べられています。
この「原価計算基準」は、1962年に当時の大蔵省企業会計審議会が公表した会計基準ですが、現在まで一度も改定されていません。
当然のことながら、公表当時の企業活動をベースに作成されており、システム化が進み、製造業の形態も変化している今日においては、原価管理の実態にそぐわないとの批判もあるようです。
一方で、原価計算基準はとても良く考えられていて変える必要がない、上場企業においても原価計算基準を守れている企業は少ない、と言う声も数多く聞かれます。
原価計算基準によれば、原価計算の目的は以下の5つとされています。
①財務諸表に表示するために必要な真実の原価を集計すること
真実の原価という難しい言葉が出てきましたが、要するにステークホルダーズに対し原価情報を含む財務諸表を開示するため、ということです。
②価格計算に必要な原価資料を提供すること
利益を出せる販売価格を算定するためには正しい原価を知る必要がありますね。
③経営管理者の各階層に対して、原価管理に必要な原価資料を提供すること
ここで「原価管理」という言葉が登場します。原価管理が原価計算の目的のひとつのようです。
④予算の編成ならびに予算統制のために必要な原価資料を提供すること
予算を立てるためには、当然原価の情報も必要です。ここには、予算管理とは、という内容まで記述してあります。
⑤経営の基本計画を設定するに当たり、これに必要な原価情報を提供すること
予算よりもさらに中長期的な計画においても、原価情報を提供することが目的のひとつとされています。経営計画を策定するにあたっても、利益目標が必要ですから、当然に原価情報も必要となります。
ここで「原価管理」とは、「原価の標準を設定してこれを指示し、原価の実際の発生額を計算記録し、これを標準と比較して、その差異の原因を分析し、これに関する資料を経営管理者に報告し、原価能率を増進する措置を講ずることをいう」とあります。
要するに、標準原価を用いて、いわゆるPDCAサイクルをまわしていきましょう、ということです。標準原価を用いる点には異論があるとは思いますが、企業経営上の管理手法としては、他の管理領域と同様の一般的な手法と思われます。
【原価計算基準】
さて、原価管理とは何かを知るために原価計算基準に記述されている原価計算の目的について触れました。それぞれの目的は、なるほどそのとおりだな、と思える内容ですが、ここに少し違和感を覚えなかったでしょうか。
前述したように、この原価計算基準は大蔵省企業会計審議会によって公表されたものであり、一般に公正妥当と認められた会計基準、いわゆるGAAPに含まれるものとされています。会社法や税法にも一般に公正妥当と認められた会計基準に従うようにとあることから、会計の世界での法律のようなものです。
また、会計の区分で言えば、主に外部の利害関係者へ財務状態や経営成績を開示することを目的とした財務会計に関する基準といえます。
ところが、原価管理は、予算管理や業績管理などと同様に、管理会計に含まれることが多い領域です。原価計算基準に記されている原価計算の目的のほとんど(5つのうち4つ)が企業内部の経営管理に関するものであることからも、管理会計といえるでしょう。
しかしながら、原価計算基準は財務会計上の会計基準です。ほかの管理会計領域について「予算管理基準」や「業績管理基準」などは、GAAPに含まれるものとしては存在していません。
原価計算の目的以外に、原価計算基準の内容を見ても、原価管理のプロセスである標準原価計算について詳述しており、さらには直接原価計算についても述べている箇所もあります。何が真実の原価か、という問題はあるにしても、どういった立場をとっているのかを明確に示していない上、記述の多くは企業内部の問題、つまり管理会計の領域に立ち入り過ぎている気もします。
原価計算において、この財務会計と管理会計の結びつき方が、特に工業簿記を一生懸命勉強してきた方や、財務会計と管理会計の目的を理解している方にとって、非常に戸惑う一因ではないでしょうか。
この原価計算基準を巡って、製造業の経理部に新しく配属された方が苦労していたり、生産部署と経理部署、マネジメントさらには監査法人を交えて対立、紛糾したりしている現場も珍しくありません。
企業が従うべき財務会計の会計基準に含まれながら、各企業がそれぞれの実態に即して行うべき管理会計とされている「原価管理」。
「原価計算基準」の存在や位置付けが、原価計算や原価管理に携わる方々を混乱に陥れている原因のひとつになっている気がします。
次回も、この原価計算基準について考察していきたいと思います。 |